035: 新山実
5月の投稿を最後にすっかり間が空いてしまった。『こけし手帖』へ酒田こけしに関する記事を掲載することになりその下調べや推敲でブログを書く時間が取れなかったことに加え、私事になるが一年振りのリーダーバンドのライヴ(ボサノヴァのピアノトリオでコントラバスを弾いている)やら副業の試験やら講習やらが諸々重なりあれよあれよと現在に至ってしまった。その間拙ブログを気にかけ訪問を続けて下さった方々には感謝の念が尽きない。

頒布の様子。左端の古作が「原」の橘文策旧蔵品。右の古作が赤の太い波線を参考にした米浪庄弐旧蔵品。
さて、東京こけし友の会2016年9月例会で新山実工人による新山栄五郎写しが新品頒布された。「原」はS幹事所蔵の橘文策旧蔵品。氏による頒布品の説明によると最初の試作品では胴下部が肩口のようなロクロ模様であったが「栄五郎のこけしとしては違和感があり」同じく氏所蔵の米浪庄弐旧蔵品を参考に赤の太い波線に変えてもらったという。

古雅な味わい
一筆目の作り付けで首元に首巻きのような突起状の膨らみが付く少し変わった木地形態。胴中央より上にはくびれがつく。「原」と見比べるとやや細身のシルエットに見えるが、氏によると敢えてそうしてもらったということであった。自分が観察した限りでは「原」は全体的に重心が低く胴裾もわずかに広がっているようにも見受けられたが、写しにそれは反映されておらずスマートですっきりとしたフォルムにまとめられている。
描彩に関しては筆致細く、「原」の味わいとは趣を異にする。また頭髪、鬢とも毛先鋭く黒々とした健康的な量感に欠ける。つまり詳細に「原」と比べてしまえば写しとしてはフォルム、描彩ともに多少の不満は残るわけであるが、しかし少なくとも自分が参加してきたこの一年の間、友の会の新品頒布で「原」を元にした写しは初めてのことであった。由緒ある古型を現在の愛好家に伝えるという意味ではとても意義のある頒布であるし、実際、栄五郎型を見て見ぬ振りをしていた節のある自分も興味を覚え思いがけず入手に至った次第である。
「原」との比較ではなく、こけし単体で改めて見てみる。

新山実工人による新山栄五郎写し。東京こけし友の会2016年9月頒布品。
大振りな葡萄の粒を思わせる頭部。線の細い面描は可憐で儚さも漂う。鋭い筆遣いによる頭髪と鬢は軽やかで毛先に動きがあり現代的な感覚があるとも考えられる。胴模様に関しては、胴裾に太い破線が配されたことにより、視覚的に締まりがもたらされたように思われる。試作の段階で引かれていたというロクロ線を想像してみるに胴の上から下までの変化に乏しく思われ、ロクロ線による繰り返しのあと少し余白を空け最後に描かれる赤く太い波線は強烈で、これにより抑揚がもたらされ全体としての起承転結が確立する。これは「原」に忠実であろうとすると生まれ得なかった効果であると思われる。実工人の描彩の独自性と、こけしとしての完成度を考えれば秀作といっても過言ではないと思う。
東京こけし友の会に学問的啓蒙的な役割があるとしたらこのような頒布の仕方を通してもそれができるし、談話会という形での勉強会よりも敷居は低く間口は広い。友の会幹事の方々は貴重な古作を所蔵されているのだから、こういった古作の写しを頒布として積極的に展開いってほしいと思う。私見では新品頒布に意義や情熱がなければ例会は本当の意味で盛り上がらないと思われるのだが。いずれにしても、今後の試金石となり得る好頒布であることは間違いない。

頒布の様子。左端の古作が「原」の橘文策旧蔵品。右の古作が赤の太い波線を参考にした米浪庄弐旧蔵品。
さて、東京こけし友の会2016年9月例会で新山実工人による新山栄五郎写しが新品頒布された。「原」はS幹事所蔵の橘文策旧蔵品。氏による頒布品の説明によると最初の試作品では胴下部が肩口のようなロクロ模様であったが「栄五郎のこけしとしては違和感があり」同じく氏所蔵の米浪庄弐旧蔵品を参考に赤の太い波線に変えてもらったという。

古雅な味わい
一筆目の作り付けで首元に首巻きのような突起状の膨らみが付く少し変わった木地形態。胴中央より上にはくびれがつく。「原」と見比べるとやや細身のシルエットに見えるが、氏によると敢えてそうしてもらったということであった。自分が観察した限りでは「原」は全体的に重心が低く胴裾もわずかに広がっているようにも見受けられたが、写しにそれは反映されておらずスマートですっきりとしたフォルムにまとめられている。
描彩に関しては筆致細く、「原」の味わいとは趣を異にする。また頭髪、鬢とも毛先鋭く黒々とした健康的な量感に欠ける。つまり詳細に「原」と比べてしまえば写しとしてはフォルム、描彩ともに多少の不満は残るわけであるが、しかし少なくとも自分が参加してきたこの一年の間、友の会の新品頒布で「原」を元にした写しは初めてのことであった。由緒ある古型を現在の愛好家に伝えるという意味ではとても意義のある頒布であるし、実際、栄五郎型を見て見ぬ振りをしていた節のある自分も興味を覚え思いがけず入手に至った次第である。
「原」との比較ではなく、こけし単体で改めて見てみる。

新山実工人による新山栄五郎写し。東京こけし友の会2016年9月頒布品。
大振りな葡萄の粒を思わせる頭部。線の細い面描は可憐で儚さも漂う。鋭い筆遣いによる頭髪と鬢は軽やかで毛先に動きがあり現代的な感覚があるとも考えられる。胴模様に関しては、胴裾に太い破線が配されたことにより、視覚的に締まりがもたらされたように思われる。試作の段階で引かれていたというロクロ線を想像してみるに胴の上から下までの変化に乏しく思われ、ロクロ線による繰り返しのあと少し余白を空け最後に描かれる赤く太い波線は強烈で、これにより抑揚がもたらされ全体としての起承転結が確立する。これは「原」に忠実であろうとすると生まれ得なかった効果であると思われる。実工人の描彩の独自性と、こけしとしての完成度を考えれば秀作といっても過言ではないと思う。
東京こけし友の会に学問的啓蒙的な役割があるとしたらこのような頒布の仕方を通してもそれができるし、談話会という形での勉強会よりも敷居は低く間口は広い。友の会幹事の方々は貴重な古作を所蔵されているのだから、こういった古作の写しを頒布として積極的に展開いってほしいと思う。私見では新品頒布に意義や情熱がなければ例会は本当の意味で盛り上がらないと思われるのだが。いずれにしても、今後の試金石となり得る好頒布であることは間違いない。
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