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010: 本間久雄 ②

本間久雄工人と本間義勝工人による酒田こけしはおぼちゃ園の中で最も重要な研究対象であり折に触れて入手したこけしを掲載していくつもりであるが、先日入手した本間久雄作はとても資料性の高い一本であったので今回はその報告とする。なお、本間久雄工人の略歴等は「005: 本間久雄 ①」の項をご参照ください。(以後、一部敬称略)

本間久雄2-1

こちらが今回入手したこけしで、高さは5寸9分。作風から『山形のこけし』に掲載されている7寸と同時期のものと推測される。同こけしは本間久雄が柏倉勝郎型を復活させた昭和48年の作品として紹介されている。

特徴的なのはなんといっても胴の重ね菊で、花弁一枚一枚が離れていてそれぞれ上向きに跳ねており、後年に見られる上下の赤丸を結ぶ縦線と下の丸に添えられる2つの小さい点がまだ描かれていない。上下の赤丸自体も小さく弱々しい。また、象形文字を髣髴とさせるような葉の模様もこの時期だけにみられる特異な様式である。肩ならびに最下部の赤帯と黄胴の間に引かれる轆轤線は赤の他に緑と黄色が用いられており賑やかである。

面描は必ずしも安定した筆致とはいい難いものの線自体は太く、それがかえって他の時期には見られない一種の情味を生んでいるようにも感じられる。びんは頭髪にくっついているが後年になるにつれ頭髪から離れていく。これは祖形である柏倉勝郎の傾向と同じでありなかなか興味深いところではある。またびん飾り自体が無造作に描かれており、様式化される以前の土臭さがあるように思われる。

本間久雄2-2

署名は背面にされている。これは製作初期にだけに認められるものでこれより時代が下ると胴底へと移動する。したがって背面への署名の有無はひとつの年代判定の拠り所となると考えられる。

本間久雄2-3

木地に関して特筆すべきは胴底だろう。胴底は勝郎の自挽きした木地と同じように底全体を3mmほどくり抜いている。これは後に通し鉋へと変化するが、勝郎方式のくり抜きから儀三郎方式の通し鉋への変化という柏倉勝郎とは逆の流れになっているのが面白い。胴自体は細く首のはめ込みもゆるいが、表情や胴模様の印象と相まって儚げな雰囲気を醸し出している。

以上のように、稚拙の味わいのある面描、変わった重ね菊、頼りなさげな木地、底のくり抜きなど、全体的に特色のあるこけしといえる。勝郎型の酒田こけしを作っていくにあたり、久雄が独自の様式を確立せんと意図的にこれを生み出したのか、勝郎型の様式を手探りで固めていった習作なのかは判断し難い。或いは勝郎の残したこけしにこれと似たようなものがあるのだろうか。残念ながらそのようなこけしは寡聞にして見たことはないがいずれにせよ、この様式は久雄の酒田こけし製作におけるごく初期の限られた時期だけに見られるものである。それは酒田こけしが勝郎本人以外の工人に継承されていく過程の記念すべき第一歩であるといえ、酒田こけしの歴史を語る上で欠かすことは出来ないこけしなのではないかと考えている。
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