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014: 平賀輝幸 ①

こけしの収集を始めて2本目で平賀謙次郎工人のこけしを入手していることが示す通り(「002: 平賀謙次郎」参照)、筆者は作並系こけしに少なからぬ愛着を覚えている。今回は平賀謙次郎工人の孫、平賀輝幸工人の古型写しについて。(以後、一部敬称略)

1. 歩み

平賀輝幸工人は昭和47年(1972年)3月1日、木地業・平賀謙一の長男として生まれた。昭和62年(1987年)、15歳の頃より木地修行を始め、こけしは平成2年(1990年)3月、工人18歳の時に作り始めたという。

輝幸工人のこけしの変遷は『こけし手帖』で追うことができる。最初にその作品が取り上げられたのは平成9年(1997年)7月発行の第437号、阿部弘一氏による「作並こけしの伝承ー平賀謙次郎・謙一・輝幸のこけしー」の記事である。工人25歳の作で、白胴8寸と台付き9寸2分が掲載されている。未だ筆定まらずといった様子であるが、丁寧に師である謙次郎、謙一両工人の作風を模倣していることが伺え、その後の躍進を感じさせる初期の習作である。

次に登場するのが平成12年(2000年)7月発行の第475号、青野弘氏による「平賀輝幸工人の近作こけし」。工人28歳の作品である。太胴なで肩の親子三代セットを皮切りに、青野氏は6寸3本、8寸3本、3寸7本の製作を依頼し当時の作風を紹介しており、作風の変遷を考える上で非常に役立つ好資料となっている。作品、未だ試行錯誤の段階とみられ、木地形態が決まらない印象はあるものの、蟹菊は工人独自の様式が認められ筆運びにも力がある。面描は現在にも通じる鋭さが出ているように思われる。青野氏も「大きめの頭、顎の絞りなどに多少の誇張があっても、今後を考えた場合、輝幸さんの作品の方向性に好感を覚えます。大成を期待します。」と結んでいる。

それから2年後、平成14年(2002年)3月発行の第494号にやはり青野氏が「平賀家三代の近作こけし」という記事で再び輝幸工人を取り上げている。ここで見られる5寸10本セットにおいて、作風が飛躍的に向上していることに驚かされる。記事のバランスが取れ、面描明快で表情にも自信が溢れているように感じる。前年の全国こけし祭りでも「審査員奨励賞」を受賞されたというのも頷ける出来映えである。

始めて作品が掲載されてから5年ほどの間に謙蔵はじめとする古い型を学び作品を向上させてきた足跡がこうしてつぶさに記録されているのは大変参考になる。現在の活躍はこの時期の研鑽に裏打ちされているということいえるだろう。

2. こけし鑑賞

平賀輝幸工人はふとっちょこけし、ソフトクリームこけし、金魚柄のこけしといったいわゆる「かわいいこけし」で女性こけし愛好家からも人気の若手工人であるが、謙蔵、謙次郎、謙一と続く作並本流の正統な後継者であるその人が、伝統性の希薄なこけしばかりをイベント会場に並べている状況に少しばかり歯痒さを感じていたことを告白する。

もちろん、そういったこけしを生み出す創造性、感性、時代感覚はこけし工人として非凡なものを有していると認めているつもりではあったが、それらのこけしはどうにも食指の動くものではなかったのもまた事実であった。自分が求めているものは古い作並の風情と味わいを感じさせてくれるこけしへと移行していた。幸い、収集最初期に参考とした『kokeshi book 伝統こけしのデザイン』にも『こけし時代』第4号にも輝幸工人の手がけた古型が多数掲載されており、その中には古格漂わす本格的な作風のこけしも見受けられ、そのことは作並こけしを収集していく上ではひとつの希望となっていた。

平賀輝幸1-2

初めて手に入れた輝幸工人作は右2本、6寸3分と4寸の入れ子こけしであった。親こけしは頭部が胴体より細くなっている比較的珍しい形態で蟹菊も4輪描かれている。黒髪のおかっぱ頭でその面描は甘めであるが目尻が少し上がった表情は優美でもある。このこけしの胴自体、なかなか細いものであるが更に入れ子細工が施されていることに驚く。子こけしは鉋溝入り白胴4寸で、葉の色に紫を使っている。この表情が『こけし時代』の中で最も気に入ったもので、二側目の下瞼が下に膨れて独特の鋭い目つきをしている。冒頭に挙げた「かわいいこけし」群とは対極にある表情と言えよう。現代的な「かわいいこけし」と渋みさえ滲む古風なこけし、この両極端を同時に作り分けるこの工人は一体どういう人物なのか興味が湧いた。

次に手にしたこけしが左の8寸5分。オークションで落札したがこれは前述した入れ子こけしと同じ出品者からのものであった。平賀こけし店で直接購入したとのことであるが、その時店内にこのような古型はこれ一本しか置かれていなかったそうである。このこけしには荒々しく鉋跡が残されていて、濃いめの染料が木肌に染みる様は得も言えぬ深い味わいを醸している。このこけしによって輝幸工人に対する印象が完全に逆転したように思う。もはや先に述べたような歯痒いという印象は霧散したのである。

平賀輝幸1-4

高幡不動にあった茶房たんたん(現 民芸サロン楽語舎)では謙蔵型、多蔵型、謙次郎型といった古型を写した頒布品をいくつか取り扱っている。その中の謙蔵型の台付き細胴のこけしが手持ちの輝幸作とのバランスも良いように思われ次の一本とすべく店へと向った。写しの頒布にあたっては各型につき通常10本程の製作を依頼するそうで、お目当ての台付きこけしも数本の中から選ぶこととなった。

面描に若干の変化がある場合、何を基準に一本を選べば良いのか判断に苦しむ。これは本間義勝工人作の酒田こけしを選ぶ時にも感じたことだった。楽語舎の店主・姫野さんに聞くと、他人がどういうかより、自分の良いと思ったこけしを選べば良いのだ、ということであった。そうやって選んでいくことで、こけしを見る目が養われていく。それまでには少なからず失敗もするものであると。この日、選んだこけしは後年の自分にはどう映るのだろうか。

それはともかく、結局この日入手したのは台付き細胴6寸5分と、同4寸。6寸5分は『東北のこけし』に掲載されている謙蔵作の写しであるとのこと。眼光鋭いながらもどことなくユーモラスなところがあり、ちょっと憎めない雰囲気を醸し出していてそこにこのこけしの愛らしさがあるように思っている。4寸は一本しか残っておらず、その分迷うことはなかった。このこけしも「原」となるこけしが存在するということであるが、詳細は分からない。こちらの表情は下瞼が上瞼とくっつかず、甘美。適度な小ささもあって「かわいいこけし」にも通じる現代性を感じている。

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