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021: 大沼昇治 ①

遠刈田系のこけし工人、佐藤茂吉が気になり出したのはいつの頃からだっただろうか。高橋五郎氏の『癒しの微笑み』に掲載されているおかっぱ頭がきっかけだったかもしれないし、或いは遠刈田系梅こけしを製作していた大沼昇治の系列工人として調べていく過程からだったかもしれない。いずれにしても、その特異な表情と胴模様に得も言えぬ魔力を感じたのは確かだ。

佐藤茂吉は万延元年(1860年)11月23日生まれ。蒐集家に頼まれて養子の円吉が挽いた木地に絵付けをした昭和14年(1939年)頃には既に80歳になろうという齢であったというからその時点で古い遠刈田を語り伝えることのできる貴重な老工人であったことが伺える。茂吉老の残したこけしの描彩は遠刈田系の様式が確立された黎明期の紋様を現在に伝えているとされ貴重な資料となっている。茂吉の系列は養子・円吉、円吉の婿・治郎、治郎の弟子・大沼昇治と続いたが、残念ながら昇治の亡き後その後継者は途絶えてしまった。

現在「茂吉型」というと弥治郎系の型という印象が強い。佐藤春二、井上四郎、ゆき子、はる美、新山慶美、純一ら佐藤幸太の系列工人が手がけ広く流布しているが、これは青根時代に弥治郎系の佐藤幸太が茂吉に弟子入りしたことに由来する。一方、本家である遠刈田系の茂吉型はというと、大沼昇治が昭和の終わり頃に取り組んだということが『こけし手帖 341号』の阿部弘一氏による記事にて写真入りで紹介されているものの、円吉ならびに治郎が茂吉型を残したという記録は見当たらない。

2015年11月、注目すれどもなかなか中古市場に出回ることなかった大沼昇治による茂吉型が出品された。大変な競り合いになるかと固唾を飲みつつ応札したが、他に入札者なくあっさり落札できてしまった。固唾の飲み損である。遠刈田の古層ともいうべき茂吉型が注目されていないことは私としてはまったく意外なことであった。

落札した8寸2種はともに昭和58年(1983年)2月の作。前述『こけし手帖 341号』掲載品は平成元年(1989年)の作であるからそれよりも6年程前の作ということになる。

大沼昇治1-1

左のこけしは『こけしの美』にカラー掲載されている西田峯吉旧蔵8寸3分を「原」とするもの。注目すべきは独特な頭髪にあるだろう。緑と赤の点で装飾された前髪が頭髪から独立した様式は他に類を見ない。胴底には署名がなく、鉛筆で「大沼昇治 S58.2.18」とメモ書きされている。

右のこけしは伊勢こけし会の定期頒布品。『こけし事典』に掲載されている8寸2分5厘が「原」と思われるがこれもやはり西田峯吉旧蔵品である。同じこけしが平凡社カラー新書の『こけしの旅』にカラーで掲載されている。カラー版と見比べると胴上下の轆轤線の色が逆であることが分かる。つまり「原」では2本の太線が緑色でその太線の間に引かれる3本の細線が赤なのであるが、このこけしではそれが反対になっている。白黒の写真から写したものなのかもしれない。左のこけし同様、前髪が頭髪から独立している点の他、縦並びに2列配置された胴模様も珍しく、見所は多い。

茂吉の描く面描の表情変化は非常に大きい。茂吉の描く二側目の特徴は概して湾曲の小ささと上下瞼の間隔の狭さ、そして左右の目の非対称性にあると言えるだろう。面描の筆致はたどたどしくそれが枯渇の味につながっている。目の位置は顔の中央よりもやや上よりで顔の下部にできた余白がふっくらと優美な印象をもたらす。

一方、昇治の茂吉型は茂吉こけしのもつ細かな変化を整理し、本人なりに消化した昇治茂吉型というべきものに仕上がっている。「原」が醸す揺れる筆によるあの枯れた味わいというものは皆無であるが、大胆につり上げられた眉と目尻がなんともいえぬ迫力を生み出している。弥治郎系に残る茂吉型とは一線を期す辛口なこけしで、同じく弥治郎系の佐藤伝内に通じていくようなある種のグロテスクさを内包しているようにも感じる。

師である佐藤治郎風のこけしから出発して円吉型、孝之助型とレパートリーを広げてきた大沼昇治にとり、茂吉型は活動後期における新しい取り組みであった。しかし昇治は平成10年(1998年)に亡くなってしまったため、茂吉型自体の製作年数は十数年に満たない。従って円吉型や梅こけしと比べると流通量ははるかに少ないと思われる。大元である佐藤茂吉の遺作自体も数少なく、その型を継いだ工人も早くに亡くなってしまったのが原因なのであろうか、茂吉のこけしに対する注目度は低くどちらかというと渋いこけしと片付けられているように思われる。もし昇治が存命で茂吉型を作り続けていてくれたらと考えると残念なことであるが、こうして記事としてまとめることにより佐藤茂吉と昇治茂吉型に対し少しでも関心が集まればと思う。

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